Message for #1
良い食品づくりを目指す人たち 天野慶之

それぞれの食品業界で、なるほどと思う製品をつくっている人たちは、言い合わしたように、真剣に原料えらびを信条にしていることに気付く。
原料は、食品製造の場合、天然物であるから、人為の及ばない自然環境に左右され、具体的には大量生産がむずかしく、仕事の規模が拡がらない惧れがある。仕事を進める以上、規模拡大は誰もが望むところであるが、原料にこだわるとそればむずかしいのだ。しかし、消費者の側からみれば、大量生産でいい加減なものを食わされるよりも、まともなものをいつまでもという気持ちが強いと言わねばならない。
「良い食品づくりの会」が、この両面を大切にするという意気込みは推進に値するものと思っている。それに販売を専業とする人たちまでが加わっている点が異色で、小さな組織の大きな特徴といえるだろう。その永続を希わずにはいられない。

Profile 天野慶之(あまのけいし)
1914年東京都生まれ。農学博士。2002年没。
東京水産大学学長、日本伝統食品研究会会長、日本有機農業研究会代表幹事などを歴任。主な著書に「おそるべき食物」(筑摩書房)、「主婦の食品手帖--五色の毒」(風媒社)など。日常生活の中で自ら実践する有機農業の米作り、野菜作りは、NHKの制作番組「耕せ『命の農』」の中でも紹介されている。


Message for #2
良い食品を国中に 志水寛

「良い食品とは何か?」という命題を皆で真剣に討議して、得られた共通の理解を拠り所に、材料にこだわり、製法にこだわって高品質の食品を作り続けている人たちがいある。「良い食品づくりの会」の皆さんである。今どきは、食べ物も他の消費材と同じように利益追求の手段と捉え、儲けるために作っている業者が多い中で貴重な存在だと思う。
新しいもの、便利なもの、カッコよいものを良しとするのが現在の風潮だが、私は食べ物だけはそれではいけないと思う。食べ物は、日々人の体を作り直すための材料であり、生命を養うための糧であり、「美味しさ」を楽しませてくれる、かけがえのない天の恵みだからである。だから、良い食品を食べたい。
「良い食品づくりの会」の皆さんが独りよがりに陥ることなく、消費者と一緒になって良い食品を国中に広げていって頂くことを願っている。

Profile 志水寛(しみずゆたか)
1926年兵庫県生まれ。農学博士。2000年没。
京都大学農学部水産学科卒業。近畿大学教授、高知大学教授、京都大学教授を経て、高知大学名誉教授、日本伝統食品研究会会長を歴任。専門は水産食品化学。昭和51年に日本水産学会加工技術賞「魚肉練り製品の弾力形成機構に関する研究」、平成3年、日本水産学会功労賞「魚肉タンパク質に関する原料化学的研究」を受賞。伝統食品の技法を自らの体験を通じて研究。技術の伝承にも多大な功績を遺す。


Message for #3
羊水に育まれた思い 井出孫六

人間は母親の胎内で十ヶ月を過ごしたあとこの世に生まれてきます。残念ながらその頃の記憶はかき消されてしまっていますが、深い海の中にいたような漠然とした印象がふと浮かんでくることがあります。それもそのはずで、母親の胎内に充ちている羊水には、海の水に含まれたミネラルと同じものが存在するというではありませんか。おそらく胎児はもっとも自然に近い環境のなかで育まれてきたのでしょう。わたしたち人間は蛋白質と脂肪と炭水化物だけで存在するわけではなく、各種ビタミンのほか自然界にある多様な微量のミネラルなしには生存はおぼつかないのです。それはコンベアの上でつくられるマクドナルド的風景からはおちこぼれてしまう類いのものといってよい。「良い食品づくりの会」のみなさんの手でつくりだされる食品には、羊水の含んでいたようなミネラルがたっぷり含まれているだろうと想像すると、心までが豊かになってきます。

Profile 井出孫六(いでまごろく)
1931年長野県生まれ。小説家。
東京大学文学部仏文科卒業。中央公論社を経て、文筆活動に入る。75年「アトラス伝説」(文春文庫)で第72回直木賞受賞。86年「終わりなき旅―『中国残留孤児』の歴史と現在 」(岩波現代文庫)で大佛次郎賞受賞。著書に「秩父困民党」(講談社現代新書)、「歴史紀行 峠を歩く」(筑摩書房)、「抵抗の新聞人 桐生悠々」(岩波新書)、「ねじ釘の如く」(岩波書店)など多数。緻密な資料分析、卓越した想像力で組み立ててゆく実証的創作方法を確立。


Message for #4
かけがえのない「食の安全」 小島慶三

「食の安全」は我われ人類にとって、全くかけがえのない大切なものです。良い食品づくりの会がその理念の第一に、「安全であること」を目標として掲げておられることに、私は心から共感いたします。どうか、いつまでもその志を大切にしてください。

Profile 小島慶三(こじまけいぞう)
1917年埼玉県生まれ。元参議院議員。2008年没。
通商産業審議官、日本立地センター理事長、経済同友会感じなど歴任。「生命系産業」を実践する「小島塾」の提唱者で、その活動は全国30数カ所で30年来続いている。著書「水はいのち」(けいめい出版)、「文化としてのたんぼ」「農業が輝く」(ダイヤモンド社)など多数。


Message for #5
安全な食品づくりに期待する 若月俊一

いま、食品を取り巻く環境に心配なことが沢山あります。農業、大気汚染、ダイオキシンや放射能、さらに遺伝子の組み替えなど......。食品に対する不安が広まっています。この時期に「安全な食品」を追求する、この会の活動に期待します。

Profile 若月俊一(わかつきとしかず)
1910年東京都生まれ。佐久総合病院総長。2006年没。
農村の地域医療の現場で60年あまり活動をつづけ、日本農村医学会名誉会長兼事務総長など歴任。保健文化賞、マグサイサイ賞、日本医師会最高優功賞などを受賞。著書「健康な村」「村で病気とたたかう」(岩波書店)、「農村医学」(勁草書房)、「若月俊一著作集」(労働旬報社)など多数。


Message for #6
良心に基づく食品づくりは貴重 大塚滋

伝統的な加工食品は、人間の良心によって行われてきたものです。それはまた、食文化を築いてきました。現状では、生鮮食品に対して加工食品を下に見る傾向がありますが、加工することによって偉大なジャンルが生じます。今後、ますます加工食品への依存度が高まり、また消費者の味覚も広がり、外食だけではなく、家庭でもおいしいものが食べたいという欲求が生じ、簡易食品や新しい食品が生まれるのですが、これらが良心に基づいて正しく作られるということが必要なのです。良い食品づくりの会で作っている品質基準の中で、「塩」について触れられていますが、これは非常に冷静な考え方で、敬服します。これだけに限らず、この会でこのような思想が貫かれていることは貴重で、今後も正しい加工食品を作ることによって発展してほしいと思います。
〜良い食品づくりの会 1997年9月8日札幌フォーラム講演録より

Profile 大塚滋(おおつかしげる)
1928年新潟県生まれ。理学博士。
米国ウースター生物学研究所などを経て現在に至る。元武庫川女子大学生活環境学部教授。専攻は、食品生化学、食文化論。「たべもの文化考」(朝日選書)、「食の文化史」(中公新書)、「パンと麺と日本人」(集英社)など著書多数。

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